問題文を読んで、各問に答えなさい(下線部の表現に留意して、「である」調で解答すること)。
 Aは、2006年6月1日に、甥であるBとの間で自己所有不動産の売買契約を締結した。Aは、もともと不動産を手放したくなかった。しかし、Bは連日、数人のガラの悪そうな仲間とともに訪ねてきて、「売ってくれ」とAに強く迫った。素行の悪いBのことだから、断ると何をされるか分からないと思い、Aはしぶしぶ応じたのである。
代金は、翌月末、引渡しと引換えで支払う約束となっていた。しかし、Bには、もともと支払う意思も能力もなかった。Aから不動産を騙し取ることが、Bの目的だったのである。Bは、すぐに登記名義を自分に移してほしいとAに頼んだ。Aは拒んだが、やはり、Bがしつこく頼むので、しぶしぶ応じた。所有権移転登記は、6月末に行われた。その後、本件不動産は、BからCへ売却され、その旨の所有権移転登記もなされた。
7月末になっても、Bが代金を支払わなかったので、Aは騙されたことに気がついた。Aは、死んだ姉の子であるBを不憫に思い、どうしようかと少し悩んでいたが、9月に売買契約の取消す旨の意思表示をした。
 甲野教授「今日は、この事案について考えてみよう。Aは、この売買契約を取り消して、登記名義を取り戻すことができるかな?」
 乙山「Bの行為は詐欺にあたりますが、同時に、Aは、断ると何をされるか分からないと思って、不動産を売ると言ったのだから、強迫による意思表示にもあたると思います。先生、一つ確認したいのですが、BからCへ売却されたのは、『その後』とあります。これは取消しの前ですか、後ですか。」
 甲野「おや、いきなり、核心をつく質問だね。仮に、取消し前だとどうなる?」
 乙山「取消し前ならば、強迫を理由に取り消したほうがよいと思います」
 丙野「取り消すのならどちらでも一緒じゃない? どうして取消し前なら強迫が有利で、取消しの後だったら、どっちでもいいの?」
 乙山「相変わらず、丙野さんは予習が足りないわね。これは、「取消しと登記」という重要論点よ。判例によれば、( ア )」
 丁原「それは、判例の立場だろ。ぼくは、納得できないなぁ。取消しの前と後で理論構成が変わるのは矛盾しているし、そもそも、取消し後の法律関係に関する判例の立場は、民法121条と矛盾する(イ)。矛盾だらけで不合理だ」
 乙山「どうせ、丁原くんは、矛盾をなくすため、94条2項でも使う(ウ)んでしょうけど・・・。大体ね、最高裁判決は絶対なのよ。」
 甲野「はいはい、そこまで・・・じゃあ、みんなよく勉強しているようだから、発展問題を出してみよう。
  上の事例で、BからCへの売却が10月に行われたとする。Cは、Bの友人で、法学部卒である。Bから話をきいたCは、AがBから不動産を取り戻すのを防ぐため、Bから不動産を譲り受け、所有権移転登記も備えた。ただ、Cは多数の借金を抱えていたため、Cの債権者であるDが12月、C名義になっている同不動産に差押えをした。Dは、これまでの事情を全く知らない。・・・としたら、どうかな?」
乙山「Cの登場は取消し後、でも、Cは・・・あ、でも、Dは・・・そもそもDは債権者、でも・・・。そうすると・・・( エ ) 」

(1)乙山さんは、よく勉強している学生です。判例の立場を前提に、(ア)に当てはまる答えとして、①なぜ、取消し前であれば強迫のほうがよいのか、②なぜ、取消しの後だったらどちらでもよいのか、を説明しなさい。
(2)丁原くんの(イ)の指摘につき、どういう点が「民法121条と矛盾する」のか、を簡単に説明しなさい。
(3)乙山さんの(ウ)の指摘につき、「94条2項を使う」と冒頭の事例はどうなるか、を考えて論じなさい。
(4)乙山さんは、判例を支持しています。乙山さんの答え(エ)を想像し、乙山さんの
立場で論じなさい。
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